1. 取得率40.5%の中身——増えた数字と、まだ短い期間
男性の育休取得率は令和6年度(2024年度)で40.5%と過去最高。前年度の30.1%から約10ポイント増えました。ただし取得期間は女性より依然短く、「取った」と「担った」の間にはまだ距離があります。
厚生労働省の雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は令和6年度(2024年度)で40.5%。過去最高で、前年度の30.1%から約10ポイントの大幅増です(出典:厚生労働省)。数年前まで「男性の育休はレアケース」だったことを思うと、これは大きな変化です。政府は2025年に50%、2030年に85%という目標を掲げていて、流れとしては「取るのが当たり前」に向かっています。
ただ、この数字には裏があります。取得期間が、女性に比べて依然としてかなり短いのです。女性は年単位の取得が中心なのに対して、男性は2週間未満の取得が相当な割合を占めます(※2026年7月時点。詳細は厚労省の調査をご確認ください)。
「40.5%」を読むときの注意点
・取得率は「1日でも取れば取得にカウント」される数字。期間の長さは反映されない
・つまり「取得率が上がった」ことと「家庭の担い手が増えた」ことは、イコールではない
・ここのギャップを埋められるかどうかが、次の章の「取るだけ育休」問題につながります
数字が伸びたこと自体は、間違いなく前進です。そのうえで「取ったかどうか」の次にある「どれだけ担ったか」に目を向けるのが、この記事のテーマです。
2. 「取るだけ育休」はなぜ起きる?構造を分解する
「取るだけ育休」は本人の意欲だけの問題ではなく、①期間の短さ ②役割設計の不在 ③スキルの立ち上がりの非対称 という構造が重なって起きます。構造が分かれば、対策も設計できます。
「取るだけ育休」——育休を取ったものの、家事育児の担い手として機能しないまま終わってしまう状態を指す言葉です。パパ本人を責める文脈で使われがちですが、人事として制度を見てきた立場では、これは個人の意欲より構造の問題だと感じています。よくある構造は3つです。
- ① 期間が短すぎて、体制が立ち上がる前に終わる。赤ちゃんとの生活は、最初の数日は誰にとっても「研修期間」。ミルクの量も泣き方のパターンも分からないうちに育休が明けると、「何もできないまま終わった」になりやすい。
- ② 役割設計がないまま始まる。育休は「休み」ではなく「勤務先が家になるだけ」なのに、会社の仕事と違ってタスクリストも引き継ぎ資料もない。「何をすればいい?」と聞く側と聞かれる側、両方が消耗します。
- ③ スキルの立ち上がりが非対称。ママは出産入院中に授乳やおむつ替えの指導を受けてスタートしますが、パパは退院日からいきなり本番。この初期差を放置すると「ママがやったほうが早い」が固定化します。
裏を返せば、期間・役割・立ち上がりの3つを設計すれば、「取るだけ」はかなり防げるということ。具体策はこの後の第5章でまとめます。その前に、双子ママとしての実感を先に書かせてください。
3. 双子ママの実感:夫の関わりが「効く」のはこの場面
双子育児の現場は「大人の手の数」がそのまま生活の質になる世界。夜間の時間帯シフト・同時泣きの分担・外出時の2人体制など、「手伝い」ではなく「担当」としての関わりが効きます。
わが家は双子です。双子育児の現場をひとことで言うと、「大人の手の数が、そのまま生活の質になる」世界です。1人が泣き止んでも、もう1人が泣き始める。授乳が終わっても、もう1回分の授乳が待っている。物理的に、大人1人では同時に2カ所へ行けません。
だからこそ、夫の関わりが「効く」場面がどこなのかは、体で覚えました。特に効くのは次の3つです。
双子ママが実感した「効く関わり方」
・夜間の時間帯シフト:夜を前半・後半で区切って交代すると、細切れでも「まとまって眠れる時間」が生まれる。睡眠が確保できるかどうかで、翌日のメンタルがまるで違います
・同時泣きの分担:1人が抱っこであやす間に、もう1人がミルクの準備。「2つの泣き声に1人で対応する」状況をなくせるのは、大人が2人いるときだけ
・外出・健診の2人体制:双子連れの移動は、ベビーカー+抱っこ紐でも荷物と受付と授乳が同時進行。大人2人が前提の設計になっている場面が本当に多い
ここで大事だと感じたのは、「手伝う」と「担当を持つ」は別物だということ。「言われたらやる」は、指示を出す側のママに管理コストが乗り続けます。一方「沐浴は自分の担当」と決まっていれば、準備からお湯の温度、着替えまで一連で回る。この差は、1日単位では小さくても、数カ月単位では家庭の空気を左右するほど大きいです。育休の期間中に「担当を持つ経験」ができるかどうかが、復帰後の家事育児の分担にもそのまま引き継がれていく——これが双子育児の現場からの実感です。
4. 採用担当の本音:男性育休の数字で企業の本気度を見分ける
2025年4月から従業員300人超の企業に男性育休取得率の公表が義務化。会社選びでは「率の高さ」だけでなく「期間」「男女両方の状況」「昇進への影響のなさ」までセットで見るのが採用担当の読み方です。
ここからは採用担当の目線です。改正育児・介護休業法により、2025年4月から従業員数300人超の企業に、男性の育休取得率の公表が義務づけられました(出典:厚生労働省)。これまで「イクメン企業です」と言葉で語っていたものが、数字で比較できるようになった——会社を選ぶ側にとっては、ものさしが1本増えた改正です。
採用側だから知っている本音を言うと、公表される数字には「作り方」の余地があります。取得率は1日でも取ればカウントされるので、極端な話、「全員に数日だけ取ってもらう」運用でも高い数字は出せてしまう。だから採用担当としては、次の読み方をおすすめします。
- ① 率と一緒に「期間」を探す。取得率が高いうえに平均取得期間まで自主的に開示している会社は、数字を「作る」のではなく「使う」フェーズにいる可能性が高い。
- ② 男女両方の数字を見る。男性育休の率だけ高くて、女性の育休復帰率や管理職比率の情報が見当たらない会社は、発信がPR寄りかもしれません。
- ③ 「取った人がその後どうなったか」を聞く。面接の場で「男性で長めに育休を取得された方の事例はありますか」と質問するのは、まったく失礼ではありません。事例が即答で出てくる会社は、制度が本当に回っています。
夫の勤務先を見るときも、自分の転職先を見るときも、考え方は同じです。制度改正の全体像は 育児・介護休業法 改正ポイントの整理 にまとめているので、あわせてどうぞ。
5. 家庭でできる設計3つ——「取るだけ」で終わらせないために
対策は①夜間の時間帯シフトを決める ②タスクに「主担当」の名前を付ける ③出産入院中から立ち上がりを揃える、の3つ。育休が始まる前に夫婦で決めておくのがポイントです。
第2章の構造を踏まえて、家庭でできる設計を3つに絞ります。どれも「育休が始まってから」ではなく「始まる前」に夫婦で決めておくのがポイントです。
- ① 夜間の時間帯シフトを決める。たとえば22時〜2時と2時〜6時で担当を分け、担当外の人は別室でしっかり眠る。「2人とも毎晩起きて2人とも寝不足」がいちばん消耗します。シフト制は、睡眠という土台を守る仕組みです。
- ② タスクに「主担当」の名前を付ける。沐浴・ミルクの調乳と洗浄・予防接種のスケジュール管理・保育園関係の書類——ひとつずつ「どちらが主担当か」を決める。主担当は準備から後片付けまで一連で持つのがルール。「手伝う」構造から「分担する」構造への切り替えです。
- ③ 出産入院中から、立ち上がりを揃える。入院中に助産師さんから受けた指導内容をその日のうちに共有する、両親学級や沐浴指導には一緒に参加しておく、など。退院日を「2人とも初日レベルが近い状態」で迎えられると、その後の分担が対等に始まります。
3つとも、特別な道具もお金も要りません。要るのは「育休を休みではなくプロジェクトとして扱う」という発想の転換だけ。取得率40.5%の時代の次に来るのは、この「中身」の勝負だと思っています。